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『おっぱい』テキスト全文



もこもこ:
 もしもしお母さん、ご飯ちょうだい お腹すいた
 眩しい光の中に出て 母との通信線であるへその緒を切られた
 そうして私は、動き出した人生に放り込まれた

犬山猫:
 『まもなくゼロ番線に、おっぱいがまいります。
 ブラジャーの内側まで下がってお待ち下さい。』

晴居:
 (もこもこの母で)「あんたはさー、2歳まで飲んでたのよ 2歳!!
 私の胸がGからBにしぼんだのはあんたのせいよ!!
 あんたはおっぱいで出来てるのよ!!」

もこもこ:
 母から毎年3回は聞く 身に覚えの無い苦情と自分の主成分

犬山猫:
 『各駅停車Gカップ行き、ホックが閉まります。
 寄せ上げ乗車はおやめくだぁさい。』

もこもこ:
 「おっぱいがいっぱい」という歌が 幼稚園で大流行
 きょうだいふたりで飲んだせいでおっぱいが出なくなったというくだりが

 兄のいる自分と同じで 罪の意識で思わず号泣
 そんな私の気持ちも知らずに ヘラヘラにやにや 歌う男子

 男子って、馬鹿

晴居:
 「おっぱい」という単語を口にしたとき、なぜか生じる気恥かしさ。
 生まれた瞬間からすぐそばにあり、お世話になった存在のはずなのに。
 ぺったんこな時代において、彼女の自意識もまだ平坦、
 しかしそれがゆるやかな坂道であったことに気付くのは、登り始めた後なのであります。
 (カレンダーをやぶる『A』)

犬山猫:
 『まもなくAカップ、Aカップです。』

もこもこ:
 ピンクで可愛い母のブラジャー こっそりつけたおませな5歳

 ブラジャー スカスカ ずるりと落ちる 母に見られてゲンコツ落ちる
 同級生の胸見てびっくり 自分の胸見てあせった10歳
 うんとセクシーなお姉さんになりたい! 短冊に書いて祈った七夕

晴居:
 天の川は英語でミルキーウェイ、
 これはギリシャ神話に出てくる女神ヘラの母乳のことで、
 旦那のゼウスが息子のヘラクレスを不死身にするために飲ませようとしたのがこぼれたのだとか。
 飲んだら不死身になるおっぱいってどんだけだよ!って感じなんですけど、
 そんな伝説が残るぐらい、古代からおっぱいは神聖な存在だったわけです。

もこもこ:
 雑誌に載ってた巨乳の体操 夜な夜な試した15歳
 そんな健気な少女時代も 今となっては遠い日々

犬山猫:
 『B、C、と通過しまして、次はDカップ、Dカップです。
 これより当おっぱいは巨乳線への直通となります。
 Dカップです。お乳首、左側です』

(晴居はカレンダーを『BC』『D』までやぶっている)

もこもこ:
 急に胸が痛くなってきた中三の夏 ジャスコの下着売り場へ行った
 試着室にておばちゃん店員 メジャー片手に私を怒鳴る


晴居:
 (おばちゃんとして)「何で今までちゃんとしたブラジャーしなかったの!?」


もこもこ:
 16までペラペラのスポーツブラで乗り切ってきたのだ
 ちなみに本当の話です

晴居:
 前の席に座っているクラスメイトの女子の背中、
 Yシャツ越しのブラジャーのラインから受ける男子の衝撃は計り知れません。
 他方、春を思う季節の中で彼女たちは自分を見つめ直す。
 自らの胸に対する違和感と世界への違和感。
 第二次性徴という名の風に吹きさらされながら、
 それぞれが抱く宿命の路線が枝分かれしていきます。
(カレンダーをやぶる『E』)

犬山猫:
 『まもなくEカップです。埼京線へお乗り換えのお客様、ご注意下さい。
 寄せ上げ乗車おやめ下さい、走ると痛いです。後のおっぱいをご利用下さい。』

もこもこ:
 Yシャツの第2・第3ボタンは大抵はじけて殉職する
 Tシャツの可愛いプリントも イチゴがトマトに バンビがイノシシに
 キティちゃんが白豚に変わる
 下着屋さんは宝探し状態 可愛い物はなかなか無い
 重さのせいで肩もこるし 自分で自分のお腹が見えない
 苦労を話せば嫌味と言われる 気まずい 正直今も気まずい

晴居:
 小さきはでかきに、でかきは小さきに焦がれるのは自然の摂理です。
 無いものねだりの衝動で進む、満たされぬ欲望という名の電車。
(カレンダーをやぶる『F』)
     
山猫:
 『次はFカップ、Fカップです。ブラジャーは通信販売をご利用下さい。
 まもなくFカップです。ホック開きます、ご注意下さい。Fカップ、Fカップです。
 乳房、ぜい肉お寄せ下さい、ホックが閉まります。』

もこもこ:
 男に胸を褒められても何か嫌だ でも けなされるのはもっと嫌だ
 巨乳は馬鹿・デブ・エロいと笑われ 飲み会では同級生に説教までされた

晴居:
 (その男として)「おい、おっぱいには何が詰まっているか知ってるか?」

もこもこ:
 「えっ? 分かりません……何ですか?」

晴居:
 「夢だっ!! おっぱいにはなあ、夢が詰まってるんだ!!」

もこもこ:
 「はあ……」

晴居:
 「しかしだ、お前のおっぱいには夢が無い!!
  お前の胸に詰まっているのはな、脂肪だ!! 脂肪だけだ!!」

もこもこ:
 訳の分からない指摘が胸に刺さる
 脂肪なのはお前の脳味噌じゃないのか
 男って本当に……

晴居:
 これはあくまで俗説ですが、女性の胸が妊娠しなくても膨らんでいるのは、
 猿人だった四つんばい時代にはオスの目線にあったお尻を、
 進化して二足方向になったときに、立った目線の位置にもうひとつ作るためだとか。
 オスを引き寄せるための、いわば二つ目のおしり。
 しかし、そんなおしりのバーターという価値を越えて、
 今の人間には、おっぱいはもっと特殊で特別な存在になっているのであります。
(カレンダーをやぶる『G』)

犬山猫:
 『おっぱい、大変込み合いまして申し訳ございません
 今しばらくご辛抱願います。次は、Gカップです。』

もこもこ:
 私にだって夢はある 脂肪だけとは言わせない
 でも、育ち過ぎた胸の今の使い道は 疲れて帰った彼を抱きしめることぐらい

晴居:
 (停止音として)プシュー……

犬山猫:
 『ご案内申し上げます、ただいま、Gカップ付近にて人身事故が発生いたしました。』

もこもこ:
 私の胸のあいだで安心したように目を閉じる彼
 子供のようなその顔を見ながら感じる 胸と自分の必要性

犬山猫:
『現在、おっぱいに挟まれた方の救出作業を行っております。
 お急ぎのところ大変申し訳ございません。』

もこもこ:
 彼の頭をなでながら思う この胸も人生も永遠ではないことを
 ねえ、もし明日、あたしの胸がAカップになっても、変わらず好きでいてくれる?
 もちろんだよと彼は言う 嬉しそうに 私の胸に顔をうずめたまま

晴居:
 エッチ(『H』)のあとに愛(『I』)がついてくるとか、
 常識的に考えて(『JK』)、そんな戯言から得るものはない(『LMN』)けど。

犬山猫:
『お待たせ致しました、おっぱいの方、持ち上げまして救出完了いたしました。
 まもなく発射いたします。』

もこもこ:
 幼なじみのシノちゃんがお母さんになっていた
 「この子に全部吸われてしぼんじゃいそうだよ」
 どこかで聴いたような台詞を言って 赤ちゃんにおっぱいをあげるシノちゃん
 忘れていた胸の本来の使い道 シノちゃんは胸を未来へ繋げている
 おっぱいで出来ていると言われた私は 自分や男のためにばかり使っていたのに
 美味しそうにおっぱいを飲む赤ちゃんを見て 胸がしめつけられるような気がした

晴居:
 おっぱい(『OP』)の中に自分への疑問(『Q』)を抱えながら、
 君はたったひとつのレール(『R』)を刻んでいく。
 (『S』を横にして指でなぞり)なにしろ人生もおっぱいも、山あり谷ありですから。
 時の流れと(『T』)共に、きみは(『U』)おっぱいと、悩み苦しんでいく。

犬山猫:『終点Gカップに到着です。ご成長、大変お疲れさまでした。
 詰め忘れ、寄せ忘れなどございませんよう、今一度ご確認下さい。
 ホック開きます。はみ出しにご注意下さい。Gカップ、です。』

もこもこ:
 私は自分の胸ほど成長できてない そこに詰め込んだ夢の途中だ
 やりたいことがたくさんある まだ折り返しの電車には乗りたくない
 だからもう少しだけ待ってほしい 親不孝かもしれないけれど

晴居:そうじゃない。胸に秘めたその気持ちは、誰にも止めることはできない。
 いつかきみが人生の終着駅で、Vサイン(『V』)出来るその日まで。、
 いつかきみが人生の重みに、勝利できる(『W』)その日まで。
 そのふたつのおっぱいはきみの人生のパートナーだ。
 縦・横・高さ(『XYZ』)、三次元の座標軸の世界の中で、
 自分の信じたその思いを貫いていけば、それでいい。

もこもこ:
 相変わらず毎日は 胸も心も揺れ動くばかりだけど 
 期待に胸を高鳴らせ 明日に胸をふくらませながら
 地に足をつけて進んでいこう 自分の道を まっすぐに

犬山猫:
 『オーライ』
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朗読ユニットです。
主に言葉を使って、なんかします。

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